新入荷

京都で寺カフェ

『京都で寺カフェ』(早川茉莉+すみれ図書室 / 大和書房)。本の題名をみて膝を打ちました。ものの見方をスライドさせて、ただしい名前を与える鋭いセンスにです。飽和状態にあるといっていい京都本のジャンルの中でも、「お寺」と「カフェ」は揺るがぬツイ…

アラン・マンジェル氏のスキゾな冒険

今年私がであって強烈な印象を受けたのが、アレハンドロ・ホドロフスキー監督の映画作品群。最新作『リアリティのダンス』をはじめ、その日本公開に併せて夏にみなみ会館で企画された『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』『サンタ・サングレ』の3本立て上…

オリーブのお勉強

来週18日(木)、当店コテージにて開催いたします、山崎まどかさん×多屋澄礼さんのトークイベントの予習にと、山崎さんの著書『オリーブ少女ライフ』(河出書房新社)を読みました。平成生まれの私にとって、雑誌「オリーブ」とその年代のおしゃれをとりまく文化…

肝をゆるめる身体作法

先日、紀伊国屋書店が主催する、内田樹さんの講演会へ参加しました。今年4冊目となる単著での新刊『街場の戦争論』(ミシマ社)刊行記念のイベントでしたが、ちょうど衆院解散が決定した時期と重なったこともあり、日本の行く末についてホットで含蓄あるご高見…

なんたってドーナツ

『なんたってドーナツ』(ちくま文庫)は、編集者/文筆家の早川茉莉さんがドーナツをテーマに、古今の短い読み物を選び出し、書き下ろしをまとめられたアンソロジー。書き物をお仕事とされる方のほか、編集者の三島邦弘さんや丹所千佳さん、イラストレーターの…

『ひとり料理 これだけあれば』、があれば。

10月初旬に『ひとり料理―これだけあれば―』(京阪神エルマガジン社)が店頭に並んだ時、「あぁ、やっぱり料理しなければならないのか」と感じたのを覚えている。こういう書籍が出版されていることはおそらく単身者の食生活が想像の通り悲惨な状況だからだろ…

いつか来た町

ぼんやりしているときによく、ここではないどこかの場所を考えているときがあります。歩いてすぐ行ける場所であったり、自転車やバスを使って足を伸ばしたり、電車を乗り継いでたどり着く街。長い時間かけて行きつく道。自分が歩いたときのことを思い出した…

作家の手紙でお手並み拝見

思えば手紙を書くことがありません。小学生中学生のころ、わざわざ投函するほどもない近所の友だちへ年賀状を出したりしていましたが、あれだって印刷された書面のすみにひとこと書きつけるだけでした。手紙をもらったこともありません。だから手紙を読む自…

読書の季節にぴったりの大型評伝

ずしりとした一冊。平積みにしていても、そこだけ重力が異なるような存在感があります。じっさいの分量以上に重厚な雰囲気。タイトルも意味深です。表紙の装画に使われたダーガーの、樹上でほほ笑むヴィヴィアン・ガールズはいったい何を示唆するのでしょう…

存在しない場所を訪れる

少しでも時間があると、どこかへ出かけたくなる。先日の台風や大雨で京都は荒れに荒れていたが、ここ数日は打って変わって快晴、というか蒸し焼けるような暑さに参っている。こうも暑いと、京都市という内陸の土地に住む私としては海が恋しくなる。 そんな時…

百年かかる孤独の読書

いつも年の暮れになると私は、年内読みかけだった本を集め、清算する意味で気合いを入れて読書に励みます。と同時に、新年明けてはじめに読む本をどうしようかと心を躍らしながら思案を巡らします。今年の書き初め、ならぬ読み初めに選んだのが、ガルシア=…

中川ワニさんのジャズ哲学

珈琲焙煎人・中川ワニさんの趣味はCD鑑賞。収集の中心はジャズ、とりわけ現代ジャズに特化している点がおもしろく、めずらしいと思います。そのコレクションから選りすぐりを紹介したのが、そのものずばり『中川ワニ ジャズブック』。 ここ京都の街には新旧…

つながっている紙

本屋で働く端くれとして、本を読んではじめて知って恥ずかしくなることがあります。こんなことを自分は知らなかった、というより、そういうことへ関心を持たなかった自分がです。 たとえば本で使われる紙について。「『文庫っていうのはね、みんな色が違うん…

野武士のように読みたい本

「『ハラが減ったからメシを食うだけ』という、真っ直ぐで単純な、潔い、図太いばかりの食事態度」「インターネットだの、情報誌だの、テレビだので見て、調べて出かけていくなんてことは一切しない。自分が生きてゆく道すがらで、腹が減ったとき、そこにあ…

おじさんの「ぼく」

世の中における「叔父さん」的存在に考えを巡らそう、という意図で書き下ろされたのが本書『おじさんの哲学』です。著者は昭和33年生まれの永江朗氏。本書を上梓する時点で55歳だという彼は、平成生まれの私にとって紛れもなく「おじさん」です。つまり、現…

足摺り水族館

物語を読む喜びは人それぞれ。無心に文字を追いかける快感、ストーリーへ没入し、ひととき我を忘れ再び返るカタルシス…。満足が大きければ、それだけ読者は良い物語を経験した幸福をかみしめます。 私にとって良い読書経験に欠かせない要素の一つが、知らな…

『銀座ウエストのひみつ』のひみつ

銀座ウエストに行ったこともなければ、お菓子を食べたこともない私。そもそも銀座に行ったことがありません。関西のごく狭い圏内で生まれ育った私は、ある種の人たちにとってあこがれの街であるというぼんやりしたイメージしか持ちませんでした。 それが本書…

How to "Whole Earth Catalog"

まっくらの宇宙にほんのり浮かび上がる青白い天体。どこか見おぼえのあるアイコンだと思いめぐり、それをいつも持ち歩いている電話機の壁紙に見いだしたとき、つながったことに気づきました。 たとえば「WEB」。その起源について、社会へ網羅的に張り巡らさ…

だから、北欧が好き

『だから、北欧が好き』著者:ヤマナリサチエ 旅行好きのお母さんを亡くされたことがきっかけで、折に触れて北欧のすばらしさを語り聞かされていたことから、フィンランド行きを決心したという著者のヤマナリサチエさん。寄り道ありの気ままな旅で、これまで…

みちこさんが気づかせてくれる

『みちこさん 英語をやりなおす』益田ミリ著 / ミシマ社 主人公は、夫と娘と三人暮らしの四十歳主婦・みちこさん。友人の弟が英語に堪能ということで、英会話の家庭教師についてもらうことになります。(教師の彼は出版社勤務の編集者で、英会話の本を作る準…

素湯のような人を想像してみる

先月より当店入口奥の壁面でパネル展開している『素湯(さゆ)のような話』(ちくま文庫/岩本素白著 早川茉莉編)。西淑さんのカバー絵がかわいらしいこの随筆選集を、毎日一、二篇ずつ、金平糖のつぶを溶かすように味わっています。 間違っても本読み、とは恥ず…

動きの見える絵から、動く絵へ

物心つく前からテレビや映画館でアニメーションに親しんできた私たちは、絵が動くということの驚きやおもしろさを改めて思うことが少ないようです。だからそのしくみを知るのはずっとあとのことで、知るとパラパラまんがでも遊ぶ楽しみがわかるようになりま…

東京・世田谷の、星を賣る店へ

休日を利用して、関東へ日帰りで行ってきました。 お目当ては二つ。ひとつは逗子の神奈川近美・葉山館へ、先日ブログでもご紹介した柳瀬正夢の展覧会を見てきました。おもしろい見聞があったのですが、こちらはまた別の機会に。 もうひとつは世田谷文学館で…

詩人、歌人とその妻・吉野登美子

吉野登美子という女性をご存知でしょうか。 大正期の詩人・八木重吉の妻として愛を受け、夫が早逝してのち二十年して、歌人の吉野秀雄の半生に寄り添いました。そうといわれてぴんとこない不勉強な私ですが、この本にはとくべつ引き寄せられる力があって、素…

柳瀬正夢全集、刊行開始

手に取った際のずしりとした感触 と、作品を大胆に切り取ったカバーデザインから、何やらただならぬ佇まいを感じさせる本書。京都左京区の出版社「三人社」より順次刊行が決定した、 画家・柳瀬正夢の全集(全四巻+別巻一)第一巻がこのたび当店の書架に並…

小島信夫からのラヴ・レター

これは難解な小説に当たってしまった、と取っかかりからつまづくようです。読みづらい。どれも文章は平易で語り口は優しく、音読するにはむしろ滑らかに進み過ぎてしまうくらい。それが恐いようで、じっさい、文意を取れないまま置き去りにされている読者が…

「街の本屋」海文堂書店閉店に思う

このたびご紹介するのは、神戸の編集会社くとうてんより発行される雑誌『ほんまに』第15号。一読して、悔しくもうらやましいという気持ちを味わいました。特集と題されて「[街の本屋]海文堂書店閉店に思う」。一書店への愛と惜別の念が盛りに盛られた一冊…