小島信夫からのラヴ・レター

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これは難解な小説に当たってしまった、と取っかかりからつまづくようです。読みづらい。どれも文章は平易で語り口は優しく、音読するにはむしろ滑らかに進み過ぎてしまうくらい。それが恐いようで、じっさい、文意を取れないまま置き去りにされている読者がいます。

ここに収められた9つの短篇は、最も早いものが1986年、新しいものは2004年に発表されました。作者にしてみれば71歳から89歳にかけての 作品で、長いキャリアのうち最晩年の仕事となりました。そんな予備知識があるならば、これはモウロクではないかしらと疑いたい気持ちにかられます。老人の 語る言葉が若者に通じないという理屈。しかし帯にある通り、そこには凄みというのか、引っかかるものがあるのも本当です。

つるりと喉ごし良く、しかも変なものを飲み込んでしまった感じ。こんな小説があるもんだ、ではなく、小説はこんなところへまで行くものかと考えるのは、両目をしばたたかせ原稿へ向かった老作家の姿を思い浮かべるせいでしょうか。

一方で、心づくしの造本に感動させられます。手に取ると、作り手の作家に対する愛情と尊敬が、つまりは意気込みが、この本は何か特別らしいという予 感となって立ちあらわれてきます。はじめから順番に最後まで読み通すと、漠然とながら作家の書こうとしたことが理解できる仕掛けになっているのも、編集の 妙という言葉に尽きるのだと思います。

 


(保田)