海炭市叙景――映画と小説

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「原作小説の映画化」と耳にすれ ば、作品や著者をよく知らないでもがぜん気になってしまう性格です。二度おいしいという発想で、欲張りなのでしょうか。原作が未読であれば、観て から読むか、読んでから観るかという悩ましい問題にぶち当たります。よほど余裕のない場合を別にして、時系列に従い後者を選択するようにしてい ます。

昨年はそれを『共喰い』(原作: 田中慎弥/監督:青山真治)でやりました。つくづく文字と映像は違うもんだと実感させられます。読書はこちらの加減で多少の調整が利きますが、映画だと そうはいきません。とくに劇場は時間や環境の束縛があって、ストレスの度合いが違います。

海炭市叙景』は映画公開が2010年、原作は1991年に単行本が刊行されました。著者は佐藤泰志。本作の執筆中に亡くなったので、小説は未完です。作家の名前をはじめて目にしたのは、一昨年の十二月に発売された「BRUTUS 文芸特集号」所収の紹介記事でした。同年生まれの村上春樹と対比させる内容が印象深く、忘れられた不遇の作家とされてきたようです。

ここ数年の作家再発見の後押しとなった劇場版。見どころのひとつは、プロットの再構成にあると思います。また、小説はそれの書かれた同時代が設定されていますが、映画では舞台がさりげなく現在にスライドされているのも気になるところ。
今春には同じ原作者による映画『そこのみにて光輝く』の全国ロードショーが控えています。ぜひ原作を携えて劇場へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
 


(保田)