サムシング・クールの時代
「そこに石膏の男が坐っている.石膏の唇がケイレンする.『タスケテクレ!』と絶叫する.それをスケッチする男がいる.Kuroda Iriはこのようなモビイルの世界にリキュウルのようなスポンタニティの流れを導入しようとしているのであると思いたいような気がする.」
本書の装幀を手がけたモダニズム詩人・北園克衛が寄せた序文の一節です。文中のKuroda Iriとは、同氏の主宰による機関紙『VOU』の同人にして医師の黒田維理。詩集『SOMETHING COOL』は1958年、彼が29歳の時に限定版として刊行され、近年、如月出版より当時の趣きそのままに復刻されました。
硬質で乾いた文体。短いフレーズの連射と跳躍する奇想。たくまれた文字の配置と構成。あとからそれらしい形容を並べてみても、ことばが風を切る疾走感に追いつきません。どのような時代も二度とやってこない、そんな淋しさとも清々しさともつかない詩人のまなざしで見せられるようです。
著者自身のノートに寄ると、収録作品は1953年から1958年にかけて制作されました。アメリカではマイルス・デイヴィスが『クールの誕生』を吹き込み、ビートニクらが大陸を駆けずり回って幕あけた50年代。日本では黒田のような若者が、何かを捉えるスケッチブック片手に街を歩き散らかしたのでしょう。
たとえば
メヌエットの
よ
う
に
リラ・モーヴ
の
影 が
ゆ
れ
て
いる
本書所収「Cool jazz coming」より
(保田)