みちこさんが気づかせてくれる

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みちこさん 英語をやりなおす益田ミリ著 / ミシマ社

主人公は、夫と娘と三人暮らしの四十歳主婦・みちこさん。友人の弟が英語に堪能ということで、英会話の家庭教師についてもらうことになります。(教師の彼は出版社勤務の編集者で、英会話の本を作る準備をしています。)

みちこさん、以前も英会話教室へ通ったことがあるものの、長く続きませんでした。海外旅行で現地の人と会話したいという動機ははっきりしていますが、今度もうまくいかないのではないかと不安があります。

こうして始まった初回のレッスン。英語での自己紹介で、みちこさんは名詞の単数/複数があやふやなことが判明。すかさず先生は、ちょっとくらい間違っていても通じればいいんです、とフォローを入れます。難しく考えてほしくないとの慮りで、それがよくわかるみちこさんも素直にうなずくばかり。

二回目のレッスンで、みちこさんは文法の基礎を教えてほしいと先生に頼みます。さっそく「動詞にはbe動詞とそれ以外の動詞があって」「このへんは簡単だから大丈夫ですね?」と先生。対してみちこさんは「簡単かどうかは先生じゃなくてわたしが決めることだと思います」と一言。このやりとりがレッスンの劇的な転換点になります。

雰囲気に合わせてわかっているふりをしていてはいけない、と決意するみちこさん。先生は先生で、相手を安心させるため先回りして言った言葉が間違っていたことに気がつく。つまり、二人は英語の勉強を日本語の文脈で進めようとしていたのでした。

英語は、ひとつしかないものにもわざわざ冠詞の「a」をつけて、はっきりさせる言語。日本語は話者がお互いを察し合い、言わでもを善しとする省略の言語。こうした、言葉のもつ姿勢の決定的な違いが、以上のさりげないエピソードから示されます。

はっとするような、たくさんある思い込みを発見させ、知らず知らず言葉の根っこへ導いてくれている。益田ミリさんの、魔法的な物語の進めかたにうっとり任せたい一冊です。

(保田)