つながっている紙

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本屋で働く端くれとして、本を読んではじめて知って恥ずかしくなることがあります。こんなことを自分は知らなかった、というより、そういうことへ関心を持たなかった自分がです。

たとえば本で使われる紙について。「『文庫っていうのはね、みんな色が違うんです。講談社が若干黄色、角川が赤くて、新潮社がめっちゃ赤。普段はざっくり白というイメージしかないかもしれないけど、出版社は文庫の色に[これが俺たちの色だ]っていう強い誇りを持ってるんです』」。

これは今回取り上げるノンフィクション『紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている』(佐々涼子 / 早川書房)のなかで、日本製紙石巻工場・8号抄紙機リーダーの佐藤憲昭氏が語っていること。たまたま電車内でこの箇所を読んだ私は、すぐにでも書店に駆け込んで検証したい気持ちにやきもきしました。

同じようなことは『偶然の装丁家』(矢萩多聞 / 晶文社)や、『文字の食卓』(正木香子 / 本の雑誌社)でも経験済み。ふだん紙の本の良さが云々とうそぶきながら、内容ばかり気にしてモノとしての本に目が向いていない。書店員として赤面の至りですが、いち読者として紙に注目してみるのは本の愉しみの幅を広げ、お手持ちの蔵書への愛着もひとしお増すのではないでしょうか。

色、触感、重さ。本が本として形を成すのに、どれほどの工夫があり情熱が注がれるにしても、決してクレジットされない「紙」の種類。本書は、その紙の生産に焦点を当て、東日本大震災に直面した製紙工場がいかに復興へ立ち向かったか、関係者の証言を取りまとめ記録した一冊です。

震災当時、ここ関西では書店から本が消えることはなかったように思います。しかし実のところ、国内出版用紙の四割をカバーする日本製紙の基幹工場が、津波によって壊滅状態にあったのです。出版各社は紙を待っている。ただでさえ斜陽産業といわれる業界にあって、商品の供給が切れることが何を意味するのか言うまでもありません。紙を抄くという当たり前にあった仕事を取り戻すのに、会社と、被災者である従業員たちはいかに戦ったのか。

技術用語であるはずの「紙をつなぐ」という言葉が、ここでは人命をつなぐ、日本の出版をつなぐという重い意味を持たされます。窮地に立たされた会社組織の動きかた、生き残るのに発揮される人間の粘り強さを思い知らすとともに、本がどのようなリレーを経て読者の手元まで届けられるのかを伝える、強烈なインパクトをもったルポルタージュです。

(保田)

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