ゴーリー絵本の描線

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今月より当店オンラインショップにてご紹介している「エドワード・ゴーリーとこわい絵本」。河出書房新社より新訳『蟲の神』の刊行と、ゴーリー絵本の全点重版を記念し、またこれらの翻訳を手がけられた柴田元幸さん責任編集による『Monkey vol.3』の特集に関連させて展開しています。

そのなかから今回取り上げるのが『AMPHIGOREY』。ゴーリーの傑作絵本15タイトルを選りすぐって一巻にまとめたお買い得版です。シリーズがいくつか刊行されているなか、こちらは1972年初版の復刻版。『The Doubtful Guest』や『The Gashlycrumb Tinies』『The West Wing』といった日本でも人気の高い作品が収められ、これ一冊でまず存分にこの作家の特異な味わいを堪能することができます。

原書のまま表記はすべて英語ですが、センテンスはたいてい短く、容易に読めるよう書かれているので辞書なしでもだいたいの意味は掴めます。意図的な例外を除いて絵にも十分な説得力があるので、眺めているだけで楽しめるのも特徴。その点、ゴーリーに似た作風をもつバクスターの作品(『バクスターの必殺横目づかい 』『バクスター危機いっぱつ』など)は、絵と文とのギャップに笑いどころがあるので別種の面白さとなるのでしょう。

ところで先月、私は紀伊国屋書店グランフロント大阪店で開催されていた、ゴーリーの原画展へ足を運びました。絵本の創作のほか、映画や広告のポスターデザイン/イラストの仕事も手がけたゴーリー。会場には額に入った原画スケッチの隣りに、同じものを何倍にも引き延ばした完成品ポスターが並べてあります。それらを交互に見比べ、拡大されたポスターの描線にまったくブレや歪みがないのを知って驚きました。原画や挿絵のプリントでは、見れば見るほど目まいを起こすような細かいペンの線が、一分の隙も狂いもなく、見事な正確性をもって整然と引かれているのです。

その美しさは、本書のようにいくぶん無理に縮小された印刷でも変わりません。オリジナルがいかに優れているかの証左でしょう。ぜひ実物をお手に取ってよくよく目を凝らし、作者一流の奇異な世界像を支える描画技術の高さを確かめてください。また、もし原画を間近で目にする機会があれば、きっとチャンスを逃さぬよう。造形の細やかさや色づかいの温かみへ直に触れれば、おのおのの作品に対する読解も覆るかも知れません。

(保田)