役に立たないマナー本

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先月、生活館の特集棚では『レイギサホウのすすめ』と題して礼儀作法やマナーに関する書籍を集めてみた(スタッフブログはこちら)。今回はその中でもお遊び感覚で並べてみた2冊をご紹介したい。

1冊は『クマのプーさん エチケット・ブック』。E.H.シェパードの可愛い表紙絵のおかげか、特集を組む前から当店で手にとる方が多い一冊である。しかしながらこの本、「エチケット・ブック」と称しているが実学的に役に立つエチケットについてはほとんど記載されていない。

―これといった理由もなく友人をたずねるのはまずいかなと思ったら、「木曜日おめでとうございますにきたよ」といいましょう。― (P14)

大人になって実際こんなことを言い出したら変な顔で見られるのは間違いない。百森村での優れたエチケットを知ることは外の世界でも大いに役立つと書いているが、こんなメルヘンが許される国があるなら訪ねてみたいところである。しかしここで重要なのは書いてあることをそのまま実践することではない。ここでのプーさんのマナーは、読み手それぞれの経験を通すと何かハッとさせるような、でも何もわからないような、そんな不思議な気持ちにさせてくれる。わかりやすさが求められるこの時代、このわけのわからなさがこの本を手元に置いておきたくなる理由なのかもしれない。

もう1冊は『イギリス人の知恵に学ぶ「これだけはしてはいけない」 夫婦のルール』。 タイトルからしてキャッチーでありいかにもハウツー本のようだが、こちらに記載のあるマナーも実践的に役立つかどうかは極めて怪しい。本書は「夫がしてはいけない 181 のこと」と「妻がしてはいけない 180 のこと」(妻の方が 1 つ少ないのが気になる)の 2 章からなっており、ヴィクトリアン後の1913 年に発行されたブランチ女史による「べからず」集である。

―夫に腹を立てたまま寝てはいけない。たとえ夜、夫に怒っていても、夫を許し、心穏やかになって一緒に眠りにつこう。けっして怒りを翌日まで持ち越してはいけない。― (P180)

それが出来たら苦労せーへんわ!と思わず関西弁で突っ込んでしまいたくなるような、べからず。夫婦生活におけるタブーをよく361 個も集めたなぁと感心するが、よくよく考えてみれば当たり前のことが書かれている気もする。

これら2冊ともにちくま文庫から、著者はどちらも英国人。ゆるく見せながらもまさに正統(Orthodox)を語る両書を読んで、人付き合いに悩んだとき本当に必要なのは解決手段ではなく、このような無意味な本を読みながらクスリと笑い、「まあいっか」と思える心の余裕なのかもしれないと考える。

(冨永)