ミシマ社さんと2冊の新刊

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先日。川端丸太町へオフィスが移ったミシマ社さんで行われた、刊行記念のパーティへお呼ばれしました。このたびの新刊は、『近くて遠いこの身体』(平尾剛著 / ミシマ社)と、『失われた感覚を求めて 地方で出版社をするということ』(三島邦弘著 / 朝日新聞出版)の2冊。新オフィスは築年不明という古い一軒家で、お座敷には代表の三島さんをはじめ、著者の平尾さん、装丁を手がけられた矢萩多聞さんの姿も見えました。

すでに店頭へ並べていた三島さんの著作を、その日のうちに読了し、煮えきらない気分を抱え宴会へ向かいました。煮えきらないというのは、その理由をうまく言葉にできない危うい感じで、捉えどころがないというのか、それでもって心を捕えられるようでした。文章はやさしく、すらすら読み進められるにもかかわらず、全体がうまく掴めない。意図的にか、混乱が混乱のまま提出されている感じで、はじめて出会う文章でした。

驚いたのが、本書を貫通するダークさです。三島さんの前著『計画と無計画のあいだ』に見られた、まっすぐで明るい勢いが退き、同じ読者を引き込むのに出口の見えない迷宮を堂々巡りさせる不穏な感触があります。東北震災を前後して書かれた2冊を比較すると、それによって隔てられたトーンの対比を眼前に見るようです。

こうして、とりとめもない戸惑いをもって宴席へついたのですが、救われたのは他ならない前述のお二人の言葉でした。平尾さんは「混乱にじたばた苦しむ様子が身体ごと伝わる」とおっしゃり、多聞さんは「読み終わってまた冒頭へ戻りたくなる循環性がある」と述べられました。論理立てて解決されたわけではないのですが、不安のいち側面を言語化されたようでほっとしました。

出版業界の「東京一極集中」から脱出を図ったことで、一度は失われた感覚。その感覚をふたたび取り戻す過程を描いた本書ですが、三島さんがお仕事の上で最も大切にされるそれを理解するには、今後の出版物や社の動きを注意深くウォッチしていく必要があるようです。

なお今月23日(木)当店にて、三島さんと、ご紹介した著書にも登場するバッキー井上さん、および株式会社はてな代表の近藤淳也さんによる出版記念トークイベントを開催いたします。ミシマ社さんの今後のご活動や、京に住まう魑魅魍魎にご興味をお持ちの方は、ふるってご参加くださいませ。


(保田)