熱闘! 日本美術史

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年始からこのかた、とんでもなく奇天烈な本を眺めていました。世界の舞台で活躍する美術作家・村上隆さんと、近世絵画に新しい文脈を探った美術史家・辻惟雄さんの共著『熱闘(バトルロイヤル)! 日本美術史』(新潮社)です。

もともとは「芸術新潮」誌上にて連載されていたこの企画。「熱闘」のいわれは両者による、美術を介した丁々発止の美学談義、芸術論の応酬合戦。これを通して日本美術史上の異能、珍品ことごとくを現代アートの地平にのせ、新たな視点と意味づけを模索する一冊です。

驚くべきはそのやり方。『奇想の系譜』で知られる辻先生が、毎回お題を掲げて挑戦状を叩きつけ、奮発した村上氏が自身の作品をもって即応酬、それにまた辻先生が批評を加えるという往復書簡の体裁をとっています。たとえば辻先生が北斎春画を取り上げれば、これを換骨奪胎した絵を村上氏が制作し、作品を見た先生が「暗い」と酷評、「絵難房(どんな絵にも難癖をつける人)」と作家が口をとんがらせば、次のお題が絵難房になる・・・といった具合。テーマもファリシズム(性器崇拝)から赤塚不二夫まで、脈絡の読めなさが魅力に転じています。

しかし、いかんせん論評と美術作品との一騎打ち。土俵の次元が違いすぎます。畳み掛けるような先生の難題に、回を重ねるごと追いつめられていく美術作家。月刊誌での連載で、不眠不休の度を超したペースにもかかわらず、制作が追いつかない。果ては村上氏自身の会社の経営までがぐらつきはじめ、いよいよ闘いは泥沼の相を呈することに。

読者を不安にさせるハラハラの展開で、ついに逆さ磔の架に縛られた村上氏の苦悶の表情を臨むにつけ、我々ははたと気づくはず。そもそも彼らはどうして争っているのか。ここに常識外れの美の探求と、芸術への尽きせぬ愛、信頼を見る読者は本物です。

熱闘の顛末は本書にある通りですが、これが「とんぼの本」として刊行されたのもまた驚き。手によくなじむ版型に満載のビジュアル、読み物としても充実した新潮社の定番入門書シリーズ。数あるタイトルの中で、これほどとがった一冊も珍しいのではないでしょうか。

とんぼの本を調べるのに新潮社のホームページを閲覧していたところ、本書でも取り上げられている村上春樹さんの期間限定サイトのお知らせを見つけました。オープンは本日15日より。村上違いではありますが、ご興味のある方はぜひチェックしてみて下さい。

 

(保田)

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