東京・世田谷の、星を賣る店へ

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休日を利用して、関東へ日帰りで行ってきました。

お目当ては二つ。ひとつは逗子の神奈川近美・葉山館へ、先日ブログでもご紹介した柳瀬正夢の展覧会を見てきました。おもしろい見聞があったのですが、こちらはまた別の機会に。

もうひとつは世田谷文学館で開催中の、「クラフト・エヴィング商會のおかしな展覧会 星を賣る店」。平凡社より刊行の公式図録を当店でも入荷し、すこぶる気になっていたのです。星を賣る店というタイトルは、稲垣足穂の同名の短篇小説から取られたもの。夕まぐれの港町を舞台にした、軽口と空想の夢幻的な小品です。

展覧会もまた、見た目も用途も怪しげなオブジェあり、実店舗を模した実物大のジオラマあり、まっ白い壁があるかと思えば、世界中から取り寄せられた「ホワイト・アルバム」のレコードジャケットだったりと、あるものないもの所狭しと並べられた奇妙な空間。まるで誰かの夢の中をふわりふわり遊覧するような心地がしました。

なかでも圧巻だったのは、同商會がこれまでに装幀を手がけた夥しい数の本の山。三方の壁いっぱいに面出しされたフロアは、さながら私設図書室といった趣き。なるほど星とはこのことだったかとため息が漏れました。冬の夜空に見渡す限り光彩を放つ、色とりどりの書物たち。そのどれもが確かなセンスで結ばれていて、大きく美しい図形を描くのです。さらに素晴らしいことには、そんな星々をわれわれは手のひらに収めて持ち帰ることができます。だってみんな本だもの。

蛇足ながら、世田谷で思い出すのは、物語の舞台となった『ねじまき鳥クロニクル』。著者の村上春樹さんは、つい先ごろ『フラニーとズーイ』の新訳を出されました。そういえば星を賣る店にもF&Zの秘密めいた特製本があったような……。

 

(保田)