『銀座ウエストのひみつ』のひみつ

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銀座ウエストに行ったこともなければ、お菓子を食べたこともない私。そもそも銀座に行ったことがありません。関西のごく狭い圏内で生まれ育った私は、ある種の人たちにとってあこがれの街であるというぼんやりしたイメージしか持ちませんでした。

それが本書『銀座ウエストのひみつ』を読んで、くやしいことに(くやしがる必要はありませんが)、つぎ東京へ出かけたら必ず、というより銀座に、ウエストに行くために東京へ出かけていきたい思いを強く持ちました。なぜでしょう。

本書は、食ガイドでも喫茶店案内でもおみやげ指南書でも、もちろんウエストのパンフレットでもありません。ウエストに並々ならぬ好意を寄せる著者の木村衣有子さんが、じっさいに店舗や工場を訪ね、従業員らへ取材を試み、そこで見聞きしたものをまとめた読みものです。

驚くような体験談があったり、会社の成り立ちをことさらに書き立てたり、他では知り得ない情報をレポートしたりという性格はありません。あるのは冒頭で投げかけられるひとつの問いかけ。「『ウエスト』らしさとはなんだろう。」

実はこの答えが最後になって明かされる、ということもないのです。パタンと本を閉じて、ああ読んだと思い、すこし幸福になっている自分に気づく。なんとなく、ウエストに行ってきたような気がする自分に気がつく。つまりそういうことで、この本自身が全身でもって「ウエストらしさ」を適切に伝えたということなのでしょう。そう思って再びページをめくると、著者の工夫や文体が、魔術をかけるように読者を包み込んでくるのが知れます。

それが成るのはひとえに著者のウエストへの信頼であり、信頼されるウエストというお店があることであり、そういった信頼感に読者は心地よく身を委ねるわけです。

もうひとつ。本書をじっさいお手に取る機会があれば、ぜひともジャケットをはがしてみてください。そこには、とびきりお茶目なひみつが隠れているはずです。

(保田)