巷の物語
当店でコンスタントに売れつづけている『心に残る名作コピー』『物語のある広告コピー』をはじめとする「広告コピー」シリーズ。読む人に強いインパクトと心地よい余韻をもたらす優れた作品を紹介していて、最新刊『物語のある広告コピー シリーズ広告編』も目下好調です。
これらコピーアンソロジーの特長は、作品の全文をじっくり読むことができる点。ふだん広告を目にする機会といえば、電車やバスの車内広告といった移動中や出先であることが多いものです。目立つよう強調されたキャッチフレーズや起用されたタレントには注意がいっても、ボディコピー(補足説明)まで気を回す余裕はあまりないでしょう。
消費者としてある程度の批評眼をもつわれわれですが、商品・サービスへ関心を持てないものは瞬間的に排除して、気に入らなければ目をそらしさえします。ほとんど直感で取捨選択し、ありきたりの広告は読まれる以前になかったことになるのが常です。
そういった文脈で、シリーズものというのはリスクが大きい一方、多分に戦略的だともいえそうです。ストーリーをひらく敷物が広いぶん、当たれば読む人の心に深く長くメッセージが留まります。成功しているものは概ね、すこし臭いくらいに情感へ訴えかけてくるものか、機知とユーモアの立ったものが多いように思います。そしてどれも文章の切れが抜群。
本書のもうひとつの特長は、作品ごと制作者によるコメントが収録されている点です。コピーの誕生にまつわる打ち明け話や、発表後の世間の反応が知れて、コピーそのものに物語のあることが心を動かします。
広告を学ぶ人やコピーライター志望者でなくとも手に取りやすい一冊。なんといってもこの時代、広告ほど平たく万人に開かれた物語はないのですから。
(保田)