毎夜一話のたのしみ

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お彼岸を前にして、朝晩ずいぶんと過ごしやすくなっています。日没の早い気がするためか、就寝時刻まで余裕のある感じがして、とっくり読書へ耽るという方も少なくないのではないでしょうか。騒々しい蝉も秋の虫にかわって、月あかるく空は静まり、いつもよりページを繰る手が捗るようです。

ここのところ私は毎晩、部屋の灯りを小さくして、眠るまでのひとときひとつずつ短かな物語を読み進めています。初版が1991年、今年6月に待望の復刊となった岩波文庫フランス短篇傑作選』です。編/訳者は小説家でフランス文学者の山田稔氏。前世紀末から20世紀にかけて、フランスの優れた18の短編小説を取りまとめたアンソロジーです。

アンソロジーの良い点は、初学者にとって知らない作家の、知らない作品へ偶然のように出会えること。読み進めるほどに新鮮さが増し、読書の幅が広がっていく実感に胸が躍ります。じっさい、私も収録された多くの作家の名前を知りませんでした。そんななかお気に入りの一編と巡り会えば、当たりくじを引いたようにほくほく幸せな気分に満たされます。

本を閉じて横になり、読んだばかりの物語を思うのは夢心地です。筆の冴えに感じ入り、美しい景色へため息ついて、訳者の仕かけたユーモアにくすくす笑う。安眠間違いなし。さらに本書で何より嬉しいのが、目次に並ぶ作家の顔ぶれです。

じつは彼らの作品集は大半が絶版になっており、入手するのもひと苦労。大きな図書館へ行けば見ることができるでしょうし、あるいは、気になった作家の名前を頭の片隅へしまっておいて、古本屋をのぞくたびに書棚を注意してみるのもおもしろいはずです。

当店では少ないながら、現在手に入る本を集めた特集台を展開しております。店頭へお立ち寄りのさいはぜひチェックしてみてください。

(保田)