『ひとり料理 これだけあれば』、があれば。

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10月初旬に『ひとり料理―これだけあれば―』(京阪神エルマガジン社)が店頭に並んだ時、「あぁ、やっぱり料理しなければならないのか」と感じたのを覚えている。こういう書籍が出版されていることはおそらく単身者の食生活が想像の通り悲惨な状況だからだろうが、忙しさを理由に料理をしない(できない)一若者として一種の罪悪感のようなものがあった。いい歳をして、料理ぐらい作れなくてはなぁ、と。

もやもやしながらも、レシピ本としてはかなり小さく手に取りやすい本書(134mm×210mm)を開いてみると1ページに大きく、

なんで料理したほうがいいの?

と書かれている。この一言だけで一般的なレシピ本とは一線を画していることがわかる。本書は読者に全く期待していないのである。しかしそれだけで、本当に料理をしない人にとって楽なことはないのだ。 話は料理に入る前の段階、調理道具のこと、調味料のことへと進んでいく。レシピの前にはレシピの使い方を、やっとレシピにたどり着くも取り上げる野菜は「玉ねぎ」「キャベツ」「大根」「じゃがいも」「にんじん」の5種類だけ。章立てになっており、それぞれの素材が○○gでどれくらいの大きさであるかを実寸大写真で掲載し、素材の切り方、余ったときの保存法、腐ったとき野菜がどうなるか(じゃがいもやにんじんが腐った絵はなかなか恐ろしい)、そしてどの程度食べることが出来るのか事細かに書かれている。お分かりの通り、「これぐらい知っているだろう」という期待が全くない。

素材も道具もフル活用の「これだけあれば」ルール、初心者向けに書かれているのにしっかり応用力がつくように計算されているのも驚くべき点である。たくさんのレシピを覚えさせるのではなく、基本の調理法を色んなレシピで活かすことによって素材の扱い方やその調理法のコツをつかめるので、自然と「あの材料を使えば違った料理が出来るかも」とレシピに支配されない自分の料理へとつながる仕組みになっている。本来、料理とはそういうものなのだ。

お金さえ払えば24時間いつでも完成された食事が手に入る時代に生きていると、作ることと食べることが切り離され、自分と食べることの間に物語を見いだしにくくなっているのかもしれない。そんな方に是非お手に取って頂きたい一冊。本書によれば、「何気なく手を伸ばした食べ物の裏に貼られたシールを見ることから、料理は始まっている」とのこと。 しかしながら店頭で見ていると、本書を手に取られたり購入されたりするのが若者だけではなく、40〜50代の奥様方が多いのも面白いところ。料理をしない一人暮らしの息子(娘)さんへの贈り物なのか、はたまた「これだけあれば」ルールの使い回し・使い切り・買い足しやすさは料理のベテランも目から鱗の普遍的なものなのか…どちらにせよ一般的なレシピ本と一風変わったスタイルは必見。

店頭・オンラインショップにて販売中です。


ひとり料理 これだけあれば|恵文社一乗寺店

(冨永)