理不尽な進化

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12月上旬に神保町に出かけた際、東京堂書店の新刊コーナーで目に入ったのが本書『理不尽な進化』であった(上階には特集コーナーもあった)。当店でも取り扱いはあるのだが、並ぶ場所が違うと全く違う本のように思えるから不思議である。鈴木成一デザイン室によるシンプルな装丁に惹かれたこともあるが、タイトルの「理不尽」と「進化」のミスマッチに違和感を覚えたことが大きい。

本書は一見進化論の入門書に見えるがそうではなく、研究者ではない私たち(筆者含む)素人が理解している進化論について理解しようと試みる。と言われてもピンとこないかもしれないが、よくよく街を眺めてみると実は私たちの身の周りには進化論的概念を元にした言葉があふれていることに気づく。小さな会社の「生存戦略」、社会に「適応」できない若者達、などなど例を挙げればキリがない。本屋で働きながら日々耳に入ってくるのが、リアル書店が「生き残る」には、とか「死なない」町の本屋といった言葉たち(どうやら私の職場は絶滅危惧種らしい)。もっと個人的な話題としては「リア充」「婚活」といった言葉も、いかに環境に適応していくかという点では進化論的概念を基にしている。生きるか死ぬかのサバイバルゲーム。著者が指摘するように、どうやら私たちはそんな「進化論が大好き」らしい。

しかし本書はそういった私たちの日常の感覚、いわばサクセスストーリーにだけ着目する進化論とは違って、地球上にかつて存在しそして絶滅してしまった99.9パーセントの生物種の敗北の歴史から、生物学の進化論と私たちの進化論(社会進化論)の理解に迫る。

あまりに内容が多岐にわたるのでここで内容を要約することが難しいが、本書の面白さはやはり私たちが何故進化論を正しく理解できないのか、そして何故進化論に魅了され安易に日常世界に還元してしまうのか、その原因についてあれこれ思索することではないだろうか。「一般的には◯◯と思われているが、正しくは△△である」というような解説書はたくさんあるけれども、何故私たちが間違って理解してしまうのか、そこに重要な論点が含まれているのではないかという着眼点が著者特有で興味深い。

結局最初に惹かれた『理不尽な進化』についてはいわばつかみの部分の話。餌につられてまんまと引っかかってしまった感じは悔しいが、その後に繰り広げられた思いもよらない展開にすっかりはまっている自分がいることに気づく。(ちなみに進化の理不尽さについての話(主に第一章)それ自体も、裏切ることなく面白いのでご心配なく。)

生物学の話なんて学生以来ご縁がない、という方も大丈夫。著者がそっと私たちに寄り添って…とよりは肩を抱いて一緒に歩んでくれるので心配ご無用。本筋から度々逸れるがそこに垣間見える著者のユーモアたっぷりの表現や博学ぶりも必見。読了後はお腹いっぱい、というよりはむしろリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』やダーウィンの『種の起源』といった古典の名作に思わず挑戦してみたくなる(読める気がしてくる)、知的好奇心を掻き立てる一冊であった。

 

(冨永)