朝のはじまり

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京都生まれ、奈良在住の詩人、西尾勝彦さんが2010年に刊行された作品集『朝のはじまり』(Booklore)。しばらく完売状態だったこちらが、このたび重版となり、当店も再び入荷いたしました。

ガケ書房の山下賢二さんや羊草の森文香さんらが参加し、年一回ひっそりと発行される雑誌「八月の水」の編集人でもある西尾さん。奈良公園の森のそばに居を構えられ、猫と散歩とお酒への尽きない愛が素敵なお人柄です。

ケータイを持たず、外出はいつも手ぶら。「のほほん」を生き方の軸に据え(『のほほんのほん』という小冊子も作っていらっしゃいます)、言葉ほどやさしくはないであろうその姿勢を生活の中で静かに追求しておられます。

草花や昆虫、水たまりなど地上数センチに生息するものたちへの関心と、やさしい目なざし、それらと一緒になって地へ横たわる眼に映るのは、高い空と風の機嫌と時の移り変わり。そこで初めて人の営みの、かすかで強かなざわめきが聴こえてくるのだと思います。

感触しようと手を伸ばすほど、開いた指から逃げるもの。目的地を定めて歩くことに馴れた人が通ることのない、たしかに気まぐれでおおらかな詩人の足取りです。

この詩集の最後に収められた「遅い言葉」という一篇。「詩は遅い言葉だと思う」と始まり、「読む人に届くまで/時間のかかる言葉」と続いていきます。だからけっして詩の言葉は、忙しなくすばしこいメディアへ乗ることがない。私がここでいくつ言葉を重ねようと、作品のもつすがすがしさや、悲しみや、のびのびしたこころよさは伝わりません。

ただ、次の一節「詩集は/遅さの価値を知る特別な本屋の棚に/ひっそりと眠っている」ここでどれだけ励まされることでしょう。当店がそんな本屋のひとつでありますようにと、行き先を見据え、業務をこなす活力を与えられるというものです。

つい先だって、嬉しいお知らせが届きました。来月18日(日)に開催いたします「恵文社 文芸部」へ、西尾さんがご参加くださることになりました。今年の春にスタートしたこのイベントも、季節が一巡りし4回目を数えます。これまでにご出店いただいたサークルさまの新作に加え、今回はじめてご応募いただく方も多く、お正月らしいフレッシュな顔ぶれでお客さまをお迎えできそうです。

それでは、当通信をお読みいただいている皆さま、穏やかに晴ればれと新年を迎えられますよう。

(保田)