視るポエジー

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新しい本を買えば、巻いてある帯をゴミ箱に入れ、カバーを取っ払って、厚い単行本ならばめくりやすくするため開いたページをぎゅうぎゅう押し付ける。中身が読めればそれで良いといったような、ある種テキスト原理主義の読者だった私は、正しく本の愛好家といえなかったようです。

装幀や紙、文字組み、書体にほとんど気を払わず(実際は気づかず意識されていたはずですが)、ジャケ買いみたいなこともなし。純文学の小説ばかり好んで読んできたというのもありますが、思えばずいぶん貧しい読書経験です。

だから北園克衛という詩人をはじめて知ったとき、もっぱらの関心事は彼が何を書いているかということだけ。意味らしい意味の読み取れないコンクリート・ポエトリーに接した幼い読み手は、気取った前衛だと反発するか、理解不能な高尚なものと敬遠するか、いずれにせよのっけから拒否反応を起こしてしまいます。

それが幸運なことに、私は次の二冊の良書に出会いました。国書刊行会の『カバンの中の月夜』は、文字を捨て、写真で詩を書いた北園のプラスティック・ポエムを集めた作品集。また、彼のデザイナーとしての仕事を特集した『アイデア』最新号は、手がけた書物の図版が多く収録されています。

とくに後者は、同時代に活躍したグラフィックデザイナー・清原悦志も取り上げられ、練られた装幀やタイポグラフィの実験には迫る説得力があります。言葉の届かない場所で、格好いいものはこういうものなのだと思い知らされる。

本の外身を凝視する、書影を眺めて胸熱くするという、これまで知らなかった愉しみにわくわくしています。近現代文学に強い関心を持つ人にとって、上記二書はブックデザインへのとっかりに頼もしく骨のある教科書となるのではないでしょうか。

(保田)